賃貸経営の火災保険はどうしたらいいの?オーナーが知っておくべき火災保険の基礎知識を解説!
はじめに
賃貸経営において火災保険は欠かせないリスク管理の一環です。しかし、「火災保険は必要だけど、どのような保険に入るべきかわからない」と感じているオーナーの方も多いのではないでしょうか?
火災保険は予期せぬトラブルから建物を守る重要な役割を果たします。また、入居者が加入する火災保険も賃貸経営を安定させるために必要なことです。
この記事では火災保険の基本的な仕組みや、入るべき保険の内容について詳しく解説しています。この記事を読めば賃貸経営を始める前に、火災保険に入る理由を理解し、入るべき保険を選べるようになります。これから賃貸経営を始める方や保険の見直しを検討中の方はぜひ参考にしてください。
目次
1-1 )家全体の保証 火災だけではない
1-2 )賃貸の火災保険の必要性
1-3 )火災保険はオーナーと入居者どちらが入る?
2 )オーナーが火災保険に入る理由
2-1 )火災への備え
2-2 )賠償リスクへの備え
2-3 )建物の損害リスクへの備え
2-4 )入居者のリスクに備える
3 )入居者に火災保険で入ってもらいたい3つの補償
3-1 )個人賠償責任保険
3-2 )借家人賠償責任保険
3-3 )修理費用補償
4 )火災保険で確認すべき補償範囲
4-1 )火災等による損害の補償
4-2 )風災等による損害の補償
4-3 )水災の補償
4-4 )物体の飛来等による損害の補償
4-5 )集団行動による破壊の補償
4-6 )破損・汚損による損害の補償
4-7 )盗難の被害に関する補償
5 )火災保険を利用する際の注意点
5-1 )示談交渉サービスの有無を確認
5-2 )保険金詐欺の加担に注意
5-3) 入居者に入ってほしい補償は契約書に明記
5-4)保険会社の指定はできない
6 )地震保険は必要?
6-1 )地震保険の目的
6-2 )地震保険の補償内容
6-3) 賃貸での地震保険の必要性
7 )保険会社の選び方
7-1 )火災保険の相場と一括見積サービスの利用
7-2 )保険会社の規模
7-3) 保険会社の形態による違い
8 )まとめ
1 )火災保険は賃貸経営に必要?

1-1 )家全体の保証 火災だけではない
火災保険はその名称から「火災の被害に限定された保険」と思われがちです。しかし、実際に保険の対象としているのは火災だけではありません。火災保険の保険適用範囲には以下のような項目があります。
- 火災、落雷、破裂、爆発
- 水災
- 物体の飛来、落下、衝突、倒壊等
- 集団行動による破壊
- 水濡れ
- 破損、汚損等
- 通貨、預貯金盗難
日本では法律により、もらい火等火災に巻き込まれた場合、出火元の住人には賠償請求を行うことができません。そのため、火災が発生した際の家と家財の保険として「火災保険」が始まりました。しかし、現在では火災保険は火事だけを補償する保険ではありません。日常生活で起り得る、「さまざまな災害や事故などによる建物へのリスク」に備える保険です。日々起り得る多様なリスクから建物と生活を守る保険だということを覚えておきましょう。
1-2 )賃貸の火災保険の必要性
賃貸経営において建物に損害が及んだり、住めない状態になってしまったりという状況は死活問題です。特に最近は自然災害が頻発しています。せっかく建てた賃貸アパートが数年で使えなくなってしまっては、建築費用はおろか諸費用を回収することもできないでしょう。
建物に損害が及ぶ状況というのは火事や台風、地震などだけではありません。多種多様な人が住む可能性のある賃貸物件では、事故や人為的な破損など、予期せぬ事態が発生する可能性があります。特にアパートやマンションのような賃貸物件では複数の入居者が生活しているため、建物全体に影響を及ぼすリスクが高くなります。
例えば火事が発生した場合、1部屋のボヤ程度で済めば良いのですが、燃え広がった場合は建物全体に影響を及ぼします。
また、オーナー管理である設備等の不具合により入居者の財産に損害を与えてしまうことも考えられるでしょう。
火災保険は建物の維持と住人への補償などによるリスクに備えるために、賃貸経営では必ず入っておくべき保険です。
1-3 )火災保険はオーナーと入居者どちらが入る?
賃貸で必要な火災保険とは、オーナーが加入するべきでしょうか?それとも、そこで生活する入居者に入ってもらうべき保険でしょうか?
健全な賃貸経営を行う観点から、入居者もオーナーも両方入っておいた方が良い保険です。なぜなら、それぞれ負っている責任が違うからです。
入居者はオーナーから部屋を借りる立場として、賃貸が可能な部屋を維持する必要があります。逆にオーナーは、入居者が安全に生活できるように建物を維持する義務があります。
それぞれ責任の範囲が違いますし、補償してもらいたいものも違います。
入居者:部屋を傷つけてしまった場合の修理費などの補償と生活の継続
オーナー:賃貸物件を維持し経営を継続するための補償
このような違った立場のリスクを回避するために、それぞれが火災保険に入る必要があります。
2 )オーナーが火災保険に入る理由

2-1 )火災への備え
オーナーが火災保険に入る最も基本的な理由として、火災への備えが挙げられます。特に深刻なリスクは「もらい火」による火災です。オーナーや入居者がどれだけ火災予防を行っていても、近隣から火災が発生した場合のもらい火を防ぐことは難しいでしょう。また、火災という特性上、出火元の住人本人も私財を失っている状況や、亡くなってしまうこともあり、賠償の支払いが困難な場合もあるという背景があります。
火災は発生すると建物に大きな損失を与える可能性が高くなります。建物に住民が住めない状態になってしまえば賃貸経営は成り立たなくなってしまいます。負債だけが手元に残るような最悪の事態を避けるために、火災へ備えておく必要があります。
賃貸経営でオーナーが火災に備えるのは最も基本的な考えです。
2-2 )賠償リスクへの備え
火災保険では「賠償責任補償」という補償があります。賃貸経営を行う上で賠償責任について考えておく必要があります。
賃貸物件ではオーナーが賠償責任を負う場合も想定しておきましょう。
- 腐食した手すりが壊れて住人が怪我をしてしまった場合
- 風で飛ばされた屋根の一部が近隣の車に落ちて傷をつけた
- 賃貸物件の塀が倒れて通行人に怪我をさせてしまった
こうした偶然起きてしまった事故に対して、賃貸物件のオーナーは賠償責任を負う可能性があります。車など値段のわかる物であれば良いのですが、人に怪我を負わせてしまった場合や最悪亡くなってしまった場合など、賠償費用は際限なく大きくなります。
物件の経営がうまく行っていても、賠償金の支払いで借金をしていては意味がありません。
賃貸経営ではトラブル時に迅速かつ適切に対応できる体制を整えることが大切です。
2-3 )建物の損害リスクへの備え
賃貸物件が損害を受けた場合、必ず相手がいるとは限りません。また、相手に支払い能力がないこともあります。台風で飛来した物体による外壁や窓の損壊、孤独死による特殊清掃の費用、さらには事故などによる予測不能な損害などが例に挙げられます。
これらのケースでは、明確な責任者がいないことも多く、オーナーが全額負担を迫られる場合があります。
オーナーは火災保険に加入する際、広範囲にわたる建物の損害を想定しておくことが大切です。
2-4 )入居者のリスクに備える
入居者が加入する火災保険ではカバーしきれない損害が発生する場合があります。入居者の火災保険は基本的に入居者の所有物や責任範囲を補償するものであり、建物全体に発生する損害は対象外となることが多いです。このような場合、補償されない損害に対してオーナーが損害を受けないためにも、オーナー自身が火災保険に加入しておく必要があります。
また、入居者が入る保険を強制することは難しく、補償範囲が足りていない場合や、入居後に保険を脱退してもすぐに退去させられないなどの問題が生じることもあります。
このように、入居者の火災保険で補償できない可能性も考慮して、オーナー自身も火災保険に入っておく必要があります。
3 )入居者に火災保険で入ってもらいたい3つの補償

オーナーが入居者に入ってもらうべき火災保険は、オーナーが必要とする火災保険とは少し違いがあります。入居者に「個人賠償責任保険」「借家人賠償責任保険」「修理保証」など、火災保険に加入することで付帯できる補償を受けてもらうことが目的です。
それでは具体的に入居者にどのような補償に入ってもらいたいのか、その内容と理由について確認してみましょう。
3-1 )個人賠償責任保険
賃貸で入居者に火災保険に入ってもらいたい大きな理由は、賃貸した物件への補償と、他の入居者へ損害を与えてしまった補償を行ってもらうためです。このような保険を「個人賠償責任保険」と言います。
例えばトイレに異物を流して詰まらせてしまい、水があふれて下の階の部屋に被害が及んだとします。家具や家電などが使えなくなってしまった場合の補償を行う必要があります。保険にも入っていない、支払い能力もない状態になってしまうと被害者は泣き寝入りをするしかありません。
事故を起こした住人も、巻き込まれた住人も不幸になってしまいます。
このようなことにならないためにも入居者には個人賠償責任保険に入ってもらう必要があります。オーナーは入居時の契約書に個人賠償責任保険の加入を明記することで、入居者に適切に保険加入を促すことができます。
3-2 )借家人賠償責任保険
借家人賠償責任保険は、入居者が物件の賃貸契約に基づいて加入する保険です。主に次のようなケースを補償します。
・入居者の過失により建物に損害を与えた場合(例:火災、爆発、水漏れ)。
・原状回復費用やオーナーに対する賠償責任が生じた場合。
この保険の目的は入居者が自分の過失による損害を賠償するための経済的負担を軽減することにあります。入居者は賃貸契約により、借りている物件に損害を与えた場合はオーナーに物件の原状回復に関わる費用を補償しなければなりません。
オーナーが入る火災保険と重複するのではないか?何が違うのか?と疑問に感じると思います。これはそれぞれ「誰が」「何に」補償するのか、という視点が違います。
オーナー:災害や事故による被害への補償。
入居者:過失等で損害を与えてしまったオーナーや他の住民への補償。
入居者は万が一の事故や過失によって賠償責任が生じた場合でも、賠償金のリスクを予防します。オーナーは過失があっても入居者が死亡してしまった場合や支払い能力がない場合でも修繕費用の未回収リスクを予防することになります。
3-3 )修理費用補償
「個人賠償責任保険」と「借家人賠償責任保険」を使ってもカバーしきれない入居者の生活上必要な補償があります。そのような場合の費用を補償するのが「修理費用補償」です。
賃貸物件では、入居契約によりどこからどこまでの管理が自己負担であるかということを明確にします。例えば玄関の鍵や窓が破損した場合、オーナーと入居者、どちらが費用を負担するのかということが、賃貸契約によって異なります。
例えば、窓は入居者が修理すべき物であるなら、外からの飛来物で窓が割れたしまった場合は入居者の費用で窓を修理しなければなりません。オーナーとしても建物の修理費用を負うリスクが軽減できます。
4 )火災保険で確認すべき補償範囲

4-1 )火災等による損害の補償
火災保険の基本となる火災補償は、「火災」だけではなく「落雷」「破裂・爆発」によって建物や家財が被害を受けた場合に適用されます。
- 揚げ物をしていて目を離した間に出火し、建物が燃えてしまった
- 電気コードなどがショートして出火し、建物が燃えてしまった
- 建物に落雷がありテレビなど電気製品が壊れてしまった
- ガス漏れなどにより爆発が起きてしまった
- 故意または故意に近い状態で起きたと判断される火災
- 地震や噴火が原因の火災(特約や各社補償規約による)
このように、不注意であっても一般的な理由で起きてしまった火災に関しては補償を受けることができます。火災保険が利用できないケースとしては故意による出火と、地震や噴火等特定の災害による2次的被害の火災は適用されないことがあるので内容をよく注意しましょう。
4-2 )風災等による損害の補償
風災系の補償には台風や竜巻などの「風災」、雹による窓や屋根などが破損してしまう「雹災」、雪によって建物が壊れる「雪災」があります。
- 台風や竜巻により屋根の一部が飛ばされてしまった
- 豪雪により屋根が壊れてしまった
- 雹により窓ガラスが割れてしまった
- 窓を開けっぱなしにしておいたことによる風や雹、雪による損害
- 台風による河川の氾濫等による浸水被害は水災での補償となる
- 台風や竜巻の際に飛来物による損害は物体の飛来に関する補償となる
風災系は主に風や気候によって発生した災害で、水災や飛来物による事故とは区別されます。保険契約の際には水災や飛来物による事故の補償も含まれているかを確認しましょう。
4-3 )水災の補償
水災とは、豪雨や河川の氾濫によって建物が浸水してしまった場合の補償です。
- 豪雨により床上浸水が発生し、建物に損害が生じた
- 河川が氾濫し、建物が流されてしまった
- 豪雨によって土砂崩れが発生し、建物がつぶされてしまった
- 地震による津波で建物が流されてしまった
- 地盤面から45㎝未満の床最多浸水
- 排水管が破裂したことによる水漏れ
水災とは主に豪雨を想定し、豪雨が原因の水害に対する補償となっています。地震による津波は水災ではなく地震の被害として判定されます。また。水災でも床下45㎝未満での浸水は補償されないという規約も多く、契約時に確認が必要です。
給水管の破裂で水浸しになってしまった場合は水災ではなく「水濡れ」の補償内容となります。
4-4 )物体の飛来等による損害の補償
物体の飛来系の補償では、「物体の落下・飛来・衝突・倒壊等」による建物や家財への損害が発生した場合の補償です。
- 自動車が庭の壁に衝突しブロック塀を破壊。その後逃げてしまった
- ボールなどが外から飛んできて窓を割ってしまった
- 飛行していたヘリコプターから物が落下して建物が破損した
- 地震により落下してきた物で建物が破損した
- 強風により飛来した雹で窓ガラスが割れた
物体の飛来系での補償は基本的に自然災害ではなく人為的な事故で、当事者が特定できず、賠償を求める相手がいない場合に適用される補償です。破損の原因となった当事者が特定できる場合は基本的にその人に賠償を求めることになります。
4-5 )集団行動による破壊の補償
火災保険の補償には自然災害や事故による建物の損害だけではなく、デモ活動や暴動など、集団行動によって建物が破壊された場合も補償の適用範囲にすることができます。
- デモ行進等の途中で何者かに外壁を壊されてしまった
- 労働争議等で何者かが投げた石で窓ガラスが割られた
- 治安上重大な問題となる規模の集団的な暴力行為=暴動によって建物が壊された
- 外国からの攻撃または内戦等により建物が破壊された
集団行動による破壊の補償とは「騒擾(そうじょう)」と呼ばれる集団的な暴力行為の範囲です。「騒擾」とはデモやストライキなどの活動で一時的に特定の集団同士がぶつかり合う程度の暴力行為が発生した状況です。これが暴動にまで発展してしまうと、集団行動による破壊の補償が適用されなくなる場合があります。暴動とは、例えば暴徒と化した市民が一定の範囲内の地域に広がり、暴力行為や略奪行為を行い治安が崩壊しているような状況を指します。また、諸外国からの攻撃や内戦が発生した際に建物を破壊された際もこの補償には適用しません。
暴動や戦争状態は日本ではめったに起こることではありませんが、集団行動による破壊の補償範囲として確認しておきましょう。
4-6 )破損・汚損による損害の補償
誤って建物の一部を破損させてしまった場合や、建物に重大な汚染状態が発生した際の補償となるのが「破損・汚損」の補償です。
- 屋内で子供が誤って壁に穴をあけてしまった
- 水道管が凍結し、破裂してしまった
- 賃貸住宅において孤独死の発見が遅れ、部屋に重大な汚染状態が発生してしまった
- 経年劣化による建物の破損
- 故意または重大な過失が認められる破損や汚損
- 「塗装が剥がれた」「表面に汚れが付いた」など機能的問題がない表面的な破損や汚損
破損や汚損による補償は不測であり、突発的な状況であることが基本的な条件となっています。経年劣化による破損や表面が気になる程度の状況では補償が適用されない場合があります。また、故意に行った破損も適用されません。
汚損に関する補償は、近年増加する孤独死による賃貸物件の汚損の原状復帰等にも利用できる場合があり、賃貸経営を行うオーナーは必ず付帯しておきたい補償内容です。
4-7 )盗難の被害に関する補償
建物に何者かが侵入し、盗難に関する被害を受けた場合の補償となるのが「盗難」「通貨・預貯金盗難」の補償です。
- 盗難の際に壊されてしまったドアの鍵
- 室内に置いてあった家電の盗難
- 室内に置いてあった現金の盗難
- 盗まれた通帳から降ろされた預金
- 敷地内に置いてあった車が盗まれた
- 保証書や購入した証拠、盗難当日室内にあったことの証明が難しい家財
- 被害に遭ったが保険適用できると思って警察に届けなかった
盗難の補償を受ける大前提として、被害に遭ったら警察に届け、盗難被害があったことを証明する必要があります。盗難品の補償は実際のところ、保証書の有無や購入時の金額が分かるなどの証明がしにくいという難点があります。
車に関しては車の保険が適用されるため基本的には家財の補償に含まれません。
賃貸経営では入居者の私財の補償によって入居を継続してもらいたいということに加え、侵入時に壊された鍵や窓の修理費用として補償を考えておくと良いでしょう。
5 )火災保険を利用する際の注意点

5-1 )示談交渉サービスの有無を確認
火災保険を選ぶ際は、示談交渉サービスが付帯されているか確認することをお勧めします。火災保険では車での事故のように保険会社が間に入って示談交渉を行うことが当たり前ではありません。示談交渉サービスがない場合、オーナーは事故を起こした当事者と直接やり取りし、保険会社に連絡して調整を行う必要があります。
示談交渉サービスがあると、トラブル解決にかかる時間や精神的な負担を大幅に軽減できます。加入時には、示談交渉サービスの内容や範囲をしっかり確認しましょう。
5-2 )保険金詐欺の加担に注意
火災保険を使用する際、保険金詐欺に巻き込まれないよう注意が必要です。例えば台風が過ぎた後、屋根の破損があり修理を依頼した際に「前から破損していた他の場所も一緒に台風のせいにして保険申請すれば大丈夫」と、修理業者から提案されるケースがあります。もちろんオーナー自ら提案してもダメです。
これは詐欺行為に当たる可能性が高いので絶対やめましょう。不正請求を目的としたトラブルに関与してしまうと、賃貸経営者としての信頼を損ねるだけでなく、法的責任を問われる可能性もあります。特に第三者から不審な提案を受けた場合は慎重に対応し、必要に応じて専門家に相談してください。信頼できる保険会社を選ぶこともこうしたリスクを避けるための重要なポイントです。
5-3 )入居者に入ってほしい補償は契約書に明記
火災保険の補償内容について入居者に明確に理解してもらうためには、契約書に具体的に入ってもらいたい保険内容を記載することが効果的です。特に、個人賠償責任保険や借家人賠償責任保険など、入居者が加入するべき補償項目を明示しておくことで後々のトラブルを未然に防ぐことができます。また、入居者が契約時に保険証券を提示するよう求めることで、実際の加入状況を確認することも可能です。このような取り組みは、オーナーと入居者双方に安心感を与えます。
5-4 )保険会社の指定はできない
日本の法律ではオーナーが特定の保険会社を入居者に指定することは禁止されています。
契約書に必要な補償範囲を明記し、入ってもらえない場合は契約を行わないことは可能ですが、どこの保険会社まで指定することは出来ません。
入居者が複数の保険会社の中から自由に選べるようにする一方で、オーナーとして必要な条件を提示することで法令順守と適切なリスク管理のバランスを取ることができます。
6 )地震保険は必要?

6-1 )地震保険の目的
地震保険は地震や津波、噴火による被害に備えるための保険ですが、地震によって受けた建物や家財の損害を元に戻すための補償ではない点に注意が必要です。
地震保険は政府と保険会社が共同で運営している保険事業です。地震保険を利用するためには火災保険に加入することを前提とし、付帯という形で地震保険に加入することができます。
地震保険は、地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的として、民間保険会社が負う地震保険責任の一定額以上の巨額な地震損害を政府が再保険することにより成り立っています。
地震保険は地震によって損壊、倒壊した建物を原状回復させるための保険ではなく、大地震を想定して被災後に生き残った人たちが生活の再建を始めることができるようにすることを目的とした保険です。
日本は地震大国であり、特に木造建築が多い地域では地震による被害リスクが高く、地震保険の需要は高まっています。
6-2 )地震保険の補償内容
地震保険の補償内容は火災保険同様に建物や家財の補償をしてくれますが、限度額が低いのが特徴です。地震保険は政府と保険会社が共同で運営する保険であり、地震保険で補償される内容や規定はどの保険会社で加入しても同じです。
居住の用に供する建物および家財(生活用動産)。
以下のものは対象外となります。
工場、事務所専用の建物など住居として使用されない建物、1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・宝石・骨とう、通貨、有価証券(小切手、株券、商品券等)、預貯金証書、印紙、切手、自動車等。
火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内で地震保険の保険金額を決めることが可能です。ただし、建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度です。
補償される保険金額は最大でも50%ですので、家が地震で倒壊した場合や津波で流された場合でも建物すべてを元に戻す費用全額を補償されるものではないということは覚えておきましょう。
6-3 )賃貸での地震保険の必要性
賃貸物件は地震保険に加入した方が良いかという点については、加入することをおすすめします。
賃貸物件においても地震保険はオーナーにとって必要性が高い保険の一つです。地震による建物損壊は修理費用が高額になります。保険がなければ経営が立ち行かなくなる可能性もあります。また、入居者が安心して生活を続けられる環境を維持していくという観点からも、地震保険に加入しておくことで入居者の安心につながります。
南海トラフや首都直下型など、大きな地震が予測されていますので、オーナー、入居者共に生活を維持していくことを考えることは大切なことです。
7 )保険会社の選び方

7-1 )火災保険の相場と一括見積サービスの利用
火災保険を選ぶ際、一括見積サービスを活用することで、複数の保険会社のプランを比較できて便利です。一括見積サービスは実際自分が入りたい保険の相場を把握するのに便利です。ただし以下の2点に注意しましょう。
・サービスによっては電話やメールが届くようになっている場合がある
・多数ある保険会社すべての見積もりを比較するのは困難
また、一社だけではなく、各社の保険を取り扱い、比較提案できる代理店もありますので、その様な会社に相談して検討を進めるのもよいでしょう。
一括見積サービスはホームページなどから行うことができますが、そのサイトによっては業者からのメールや電話が来るようになっている場合があります。基本的にページ内に書いてあるのでよく確認してから利用しましょう。
保険の補償内容、金額などは保険会社によって違いがあります。多数の保険会社を比較検討しても混乱してしまう可能性があります。気になる保険会社を3社ほど絞ってから利用することをおすすめします。
7-2 )保険会社の規模
火災保険を選ぶ基準の1つとして保険会社の規模や安定性を確認するという方法があります。保険会社の規模で何を確認するかというと、大地震や洪水による広範囲の水害など、大規模な災害が起きたときの対応と保険金の支払い能力です。
一度に多くの保険加入者が被災し保険金の支払いが生じた場合、小規模な保険会社は資金に不安が残ります。万が一倒産しても保険金を補償する制度があるのですが、必ずしも全額支払われるとは限りません。また、全国展開している大規模の保険会社は、大小さまざまな災害を経験しているノウハウを持っている可能性が高いです。
大手の保険会社が必ずしも良いというわけではありません。規模の大きい保険会社でも対応が悪いところもありますし、小規模でも信頼性の高い場合もあります。保険内容に魅力を感じたら、次は保険会社の規模を参考に、万が一大きな災害が発生したときのことも考えて、保険会社に対応方法を確認しておきましょう。
7-3 )保険会社の形態による違い
火災保険を提供する保険会社には、「生協」や「損害保険会社」といった異なる形態があります。これらは保険会社の名前が違うだけではなく、保険そのものの仕組みやルールも異なります。それぞれに特徴を理解し、目的に合った保険を選ぶようにしましょう。
①生協(共済型保険)
生協が提供する保険は、一般的に保険料が低く設定されています。組合員同士が互助する仕組みのため、小規模な災害や日常的なリスクに備えたい人には適しています。ただし、大規模な災害時の支払い能力や補償内容の幅広さは、損害保険会社に比べると限定的です。
➁損害保険会社(商業型保険)
民間の損害保険会社は、幅広い補償内容や大規模災害への対応力が強みです。特約の種類も豊富で、オーナーとして火災以外のリスクにも備えたい場合に適しています。
生協と損害保険会社は規模や金額の違いだけではなく、管轄する法律も違います。
・生協:消費生活協同組合法
・損害保険会社:保険業法
つまり、根本的なルールから違いがある全く別物の保険と考えてよいでしょう。
生協はリスクの軽減は最低限にして、保険料をできるだけ安くしたい場合に適しています。損害保険会社は幅広い補償の種類と保険金額の大きいものが多く、生協より大きなリスクに備える場合に適しています。
また、地震保険は保険会社と政府が共同で行うものであり、生協の共済に添付することは出来ません。その代わり生協では「お見舞金」ということでお金が支払われますが、金額の規模は地震保険より少ない金額となります。
賃貸経営を行う際は幅広く、また保険金額も大きい損害保険会社の方が向いていると言えます。
8 )まとめ
賃貸経営において火災保険は、オーナーと入居者の双方にとってのリスクを軽減し、住みよい住宅と生活の維持を助けてくれます。
オーナーは賃貸経営と入居者の生活を守るため、火災や天災、孤独死など多岐にわたる損害に備える必要があります。
オーナーは入居者が加入する火災保険だけではカバーしきれない部分も考慮した保険加入を行うことが大切です。また、入居者には借家人賠償責任保険や個人賠償責任保険に加入してもらうことで、予期せぬトラブルや事故に対応しやすくなります。
火災保険を選ぶ際には、補償範囲や保険会社の規模、形態をしっかり確認し、適切な保険を選択することが大切です。
賃貸物件のオーナーにとって、火災保険は単なる補償の手段ではなく、安心して経営を続けるための基盤です。物件や入居者を守るためにも最適な保険を選び、リスクを最小限に抑えることを心がけましょう。